物書き入門
2008.1.31
  はじめに。

  私も一応物書きの分野ではそれなりに一定の評価を受けるようになりました。
 そこで、後輩でいまだ書くことが苦手の人のために自分の経験を元に、
「書くこと」についてつれづれなるままに書いてみました。


第一章 書く前の心構え
   
1.
言葉はイメージです
 


  イメージが浮かばない人は物書きに適していません。
海を見てなんと思うか?感じるか?
   「海は広いな、大きいなー、行って見たいなよその国」 
これは小学校で歌った唱歌です。
  「おだやかな波がある海」「青い海」「荒波たる海」「コバルトブルーの海」
など、海について書けと云われたら、人それぞれ異なった表現をします。
  その表現は、海を見て脳の中にあるイメージを描き、それを書くという行
為によって具体的に見える形にした結果なのです。
誰でもイメージを浮かべることは出来ます。問題はそのイメージを目に見
る形での文字(言葉)として表現できるかどうかなのです。

   
2.
言葉は思想です
 
  言葉は人と人の意思の交流のための手段ですが、この言葉は思想なのです。
つまり、その人の考えによって同じ事を言うにしても言葉(表現)が異なります。
 「努力します」「検討します」「努めます」「前向きに検討します」
同じような表現であっても中身(思想)はバラバラです。要はその人の考え、つまり
思想から出発して言葉があるのです。

   
3.
物書きの上達方法
 
  どんな世界でも努力なしで上手になることはあり得ません。たくさん書く、
という努力を何倍も行うことです。量を書くことによってそれが少しづつ質
に変わってくるのです。多くの物書きの人に聞いても、必ず沢山書いていま
す。とにかく書くこと。下手とか上手とかテクニックなんか気にせず、沢山
書くこと。これが上達への王道でしょう。

   
4.
 正直な心で書く
 
  書くということは脳が感じたことを書くという別の脳に指示して、その結
果文学として表現されたものです。この場合、正直な心でないと脳と脳の伝達
の際いわゆる雑音が入り、書けなくなるのです。物書きに悪人はいませんし、
悪人は正直な心でないため書くことが出来ません。

   
5.
 物書きは自己主張の表現の表れです
 
  自己主張のない人は書けません。書いたとしても誰が書いたかわからない
ような一般的な内容になります。面白くもおかしくもない文、よって存在価値
のない文になります。自分の考えを持つこと、そしてそれを表現すること、
これが自己主張なのです。
  自己主張の出来ない人は物書きになれません。
   
6.
 起承転結は時代遅れ
 
  今のような忙しい社会では、まず結論ありきです。起承転は「結」の後に
書く、これが時代の趨勢です。会話でも、結論を後回しにして話し始めると、
聞いている人は疲れてしまいます。発言する場合でも、最初に結論を述べ、
つまり、賛成反対の立場を先に述べて、その次に理由を述べるのが主流に
なってきています。

   
7.
結論を書かないと締め切りに間に合わない
 
  1980年頃のFaxが普及しない頃はテレファックスという手段で世界中
の情報を交信していました。日本の新聞記者が外国から日本へ送信する際、
大変時間がかかり、すべての原稿を送付するのに20〜30分もかかりました。
  しかし、新聞社は原稿の締切り時間があり、待てずにその原稿をボツにしま
した。この体験により、送信する人は先に結論、重要部分を書き、後に重要で
ない内容を送信したのです。この基本的スタンスは今でも変わりません。
  むしろ、この方法が主流になってきています。
   
喜怒哀楽のない文章は死に文だ
 
  「朝起きて、顔を洗って歯を磨き、・・・」という決まり文句を日記帳に書
いたことがあります。まったく面白くないし、当たり前のことをだらだら書い
ている、最後に「ジャンジャン」。喜怒哀楽の無い文章なら、むしろ書かないほ
うがましです。
  感動しない、させない文章なんか誰にも相手にされません。
  読み終わったら「あーそう」の感想で、終わりです。次が続かないのです。
   
9.
書くことと読むことは連動している
 
  よく読書は嫌い、という人がいますがこのような人は書くことも苦手です。
逆に言うと書く人はよく読書をしています。この両者は連動していて切り離す
ことは出来ません。
  物書きと云われる人はおしなべて読書家です。上手に書きたいけど読書嫌い
だという人はもう論外です。若いときに読書をせず30代になってから物書き
になりたい人はかなりの努力が必要です。(可能性薄いかも?)

   
10.
難しい性格の人は文章も難しく書く
 
  書くことと性格は連動しています。文章を書けば性格が出るし、性格は文
章に表れます。心の温かい性格の人は、文章にその人柄がなんとなくにじみ出
ています。自分の性格がよくない人は文章を書きたがらないし、書けないのです。
書くと、性格がもろに表れてしまうし、そのような性格の人は自分を隠そ
うとするので、文章も書けなくなります。物書きは「まずよい性格から」と
なります。


第二章 書くテクニック
   
1.
まず書く
 
  紙とペンがあったらまず書くこと。車の運転と同じで理論より実技が大切。
理屈を考えるより、実技を優先したいものです。考えるという脳は休みにして、
書くという脳を優先させること。これが出来ない人は考える脳が強大になり、
書かせる脳をつぶしてしまい、結果的に欠けないで終わるのです。

   
2.
書くときはテーマが大切
 
  テーマは、自分で決めるのと、他人から云われて決まっている場合があり
ますが、いずれにしても、そのテーマについて、何をどのように書くかが大切
です。
  時には、テーマと内容が一致せず書かれている場合があります。しっかり
テーマに合わせて書くか、はっきりとした考え(主張)を持って書くことです。

   
3.
テーマと内容
 
  テーマが決まって、すでにイメージがわいている人は、この文章を読む
必要はありませんが、イメージのわかない人のために。
  5W1Hと言われている、いつ、どこで、誰が、なにを、どのようにしたか、
ということを順追って書けばそれで一応合格間違いないです。
  しかし、それだけでは最低の合格ですので、少し味や、付加価値をつけて、
内容をアップしましょう。

   
4.
タイトルは重要
 
  文書には必ずタイトルがあるものですが、タイトルのない文書があります。
メールの世界でも件名を要求していますが、これです。
  このタイトルのない文書は扱いが厄介です。又、タイトルのある文書であっ
ても、タイトルと中身が異なる場合があり、正しく文章を書けるかどうかは、
これをチェックするだけでその人の能力がわかってしまいます。
   研修レポートを書かせると、研修内容はそこそこで、それを受けての提案
内容を多く書いている人がいます。
   それは、タイトルと異なるので、別のタイトルで提出すべきなのです。
   
5.
接続詞のない文章はお経と同じ
 
  文章(小説は別として)には、接続詞が必要で、これによって読む人に理
解しやすいようにします。
  「そして」 「しかし」 「また」 「よって」 など、これを入れることによって、文章
と文章の関係がはっきりしてきて、読みやすくなります。
  ちなみに、お経は接続詞がないごとく永々と続きます。よく飽きないで我慢
して聞くものですね。これがビジネスの世界では許されません。ハーイ。

   
 6.
て、に、を、は、の誤りなんかを気にしない
 
  文章を上手に書こうとするあまり、て・に・お・は・に気がとられて、そのた
め文章が書けなくなることがあります。
  しかし、こんなことに気にせず、とにかく、ドンドン書くこと。書き終わって
から推敲(すいこう)(書いた後に読み返して、誤字や変な言い回しを修正する
こと)すれば良いのです。

   
7.
文章はいかに短く表現するか。
 
   昔、スピーチとミニスカートは短いほど良いと云われたことがあります。
文章もしかりです。長々と書かれた文章は好まれない。一回読んで、読み返さ
なくても意味がわかる文章にしたいものです。なぜ文章を長々と書くのか理解
できません。
  何故なのでしょうか? 多分、上手にみせようとして?
   
少し酒を飲んで感性で書く
 
  文章を書くとき、とくに随筆の場合、思いつくままに書くのですから、
理性モードを感性モードに切り替えて書くと文書がすらすら書けます。
  そのためには少し酒を飲み、アルコールによって、思考することを担当して
いる大脳を休ませ、感性を担当する中脳の出番とするのです。
  何事もやってみる、トライする。感性担当の中脳で書き、推敲は大脳で書け
ばよい文章が書けます。

   
9.
ひらがな表現と漢字表現
 
  通常、副詞はひらがなで書くのが常識です。しかし時に、副詞を漢字で表
現している文を見ることがあります。転換のキーボードでわざと漢字の所を押
しているからです。多分、ひらがなでは安っぽい文章と思われるのを嫌って押
したのではないでしょうか。それを見ると「素人だなー」と感じてしまいます。
「副詞はひらがなで」これが基本です。
  
 副詞に限らず、名詞、動詞でも漢字を使うべきところは漢字で。そうしな
いと、読む人が読みずらく感じます。


第三章 物書き放談
   
1.
プロは下書きしない
 
  昔、音楽演奏者が楽譜を見て、一回打ち合わせの音合わせをした後、本番
演奏したのを聴いて、驚いたことがあります。これを「初見演奏」と云ってい
ました。すごいなー。
  プロとはこのようなことか?と感じました。物書きの世界でも、プロは下書
きしません。(少しオーバー?)、少し考えて書き始めるといっきに書き始め、
終わらせます。これは練習を何度も繰り返すとできるようになります。
  すごいなーと思われても本人にとっては普通のことと思っています。決して
自分は「すごいだろー」なんて云いません。もし云ったとしたら自慢でなく
冗談ですので・・・。

   
2.
物書き上達方法
 
  すでに、上達の近道は、沢山文章を書くことと述べましたが、さらに重要
なことは良い先生に従事することです。師と仰ぐ人がいると、いないでは大違
いです。小生も若いころ起案文書を書いて、大幅に修正されたのを覚えていま
す。師と仰ぐ人に巡り合えたら、それでもう物書きとして一人前になること間
違いありません。
  ただし、一人前になることとプロとは格段の差ですヨ。
   
3.
物書きは選ばれた人
 
   誰でも物書きにはなれません。書くことができる人は知識人、文化人とし
て世の中で崇められます。そういう意味では選ばれた人、つまりエリートなの
です。エリートですからみんなから尊敬も受けます。資本がいらず少しの才能
と多くの努力、これによってエリートになれるのです。(注;この場合のエリー
トとは、書くという特技を持ち、他の人より有利な立場に立つ人)

   
4.
役所の文章
 
  役所の文章は難解です。易しく表現してはいけない世界です。わざと難し
く書き普通の人を寄せ付けない方針なのです。これは、自ら持っている知識を、
わざと他人に知らせず、隠す働きもしています。
  世界が違うので、どうこう言っても始まりません。言語明快、意味曖昧、の
世界なのです。物書きでも役所は役所のスタイルがあり、これはこれで否定で
きません。役所の文章の代表は法律文ですが、とにかく長文で難解です。
簡単明瞭に書いてはいけないことになっています。
  別世界、別世界・・・。
   
5.
物書きは旅が大好き
 
  旅の嫌いな物書きはいません。
  旅は知らないところへ行って、新しい風景、景色などを自分の目で確かめるこ
とによって、新しい情報、思考がインプットされ、それが糧となって新しい創
造力が見出されます。その創造力をいかに書いて目に見える形にするか、とい
う才能が要求されるのです。自宅に引きこもって、小説を書くという人はまず
ありえないことです。
  かつ、一人旅が大好きで、少し我がままかも?
   
6.
ペンは剣より強し
 
  慶応大学のロゴは今でもペン先の形です。
  これは、剣よりペンのほうが強いという思想の現れです。徳川幕府から明治政
府に変わった時、従来の武力から、言論の重要性を訴えたシンボルなのです。
  元首相小泉純一郎氏の叔父に当たる小泉信三氏が「ペンは剣より強し」という
本の中で書いています。


  終わりに。
 
  インターネット上で文章を書くための参考になるホームページを紹介します。

○ 「文章を書く心がけ」 結城 浩
http://ww.hyuki.com/writing/writing.html

○ 作文の書き方アドバイス 森竹 高裕
http://homepage1.nifty.com/moritake/kokugo/sakubun-point.htm

 蛇足
1 物書きとは
   物書きとは、作家、シナリオライター、記者、フリーライター、
エッセイスト、漫画やドラマの原作者など、多種多様。
http://okwave.jp/qa2892331.html

2  本の紹介
  「日本語の作文技術」 本多 勝一 著
     朝日文庫 1982年1月発行
     作文を書く人のためのバイブル書。