タイの歯科医療について

◆タイの歯科医療 / 安心して治療を受けるために・・・・・
(2002年7月10日、タイロングステイでの講演内容)

◇ もっと詳しく・・・久米さんのコラムへ

海外で医療を受けるとなると、日本で受ける場合と違っていろいろと心配事があります。よくいただく質問に、

@ タイ人の医者のレベルはどうですか?

A 日本並の治療が受けられますか?

B 歯科治療なんてうけてエイズになりませんか?なんか不潔そう。

C 言葉の問題は?

D タイでは生活費はとても安いんですが、料金はどうですか?

といったことがあります。 このテーマのお話をするには、まずタイと日本の違いを説明することから始めるのが適切かと思われます。

■その1: タイは専門性になっているところが多い。

日本では3つぐらい椅子を並べていて、歯を抜いているかと思えば、隣でアマルガムやレジンの詰めものをし、またその隣で入れ歯を作る。その次には子供の処置をするなど、まるで「何でも屋さん」です。 一方、タイは専門性に分かれているので、歯を抜く先生は歯を抜くだけ、神経の治療の先生は神経の処置だけというようになっていま す。この2つ、比べてどちらがいいかとは簡単には言えません。それぞれにいいところがあり、それぞれに欠点があります。

例えば、虫歯で歯が痛くて歯医者に行ったとします。神経をとれば痛みはその日に消えます。日本の歯医者なら誰でもします。ところがタイでは、その日に神経の先生がいなければレントゲンと痛み止めの薬だけで返されてしまいます。歯科医師免許を持っているなら誰でもその日の痛みぐらい止められるはずですが、されることは少ないようです。専門外のことをして万が一トラブルが起こった場合の心配をしているのか、やりたがらない歯医者がほとんどです。 そのかわり専門の先生の処置は不適切であることは少ないようです。

毎日親知らずばかり抜いている先生の処置が悪かろうはずがありません。守備範囲を狭めれば習得するのは楽になりますから、その守備範囲内では十分な処置が行われます。これは私が 「タイの治療悪くありません。」という理由の一つです。は実際日本の平均的な処置よりずっといいと感じています。

まとめ: 

専門性になっているので、処置自体はよい。ただし痛いときにその日に痛みをとめてもらえるとは限らない。(飛び込みでかかる ときには注意必要)時間と日数がかかってしまう傾向がある。診断について、大きな視野が欠けていることがときどきあるように感じます。特に根っこの専門家に多いのですが、問題となっている歯しか目に入っていないんじゃないかと思えるような処置を見ることが少なからずありました。

口全体(場合によっては体全体、あるいはその後ろにある社会的立場)を考えて治療計画と方針を決めて処置すべきですが、専門性の先生のほうがこの点でかけていると思えることがよくありました。ですから専門性をしいている歯科医院にかかった場合、治療を受ける前に治療方針や治療計画はしっかりと話しあってください。

その2: 感染予防

感染症に関して、タイという国は決してイメージの良い国ではありません。特に91年、92年のエイズ騒動のときはタイのイメージは最低だったと思います。しかし、そ のときでさえ、エイズ チェックの体制は日本よりずっと進んでいたのではないでしょ うか?日本は感染状況をしっかりつかむような調査さえされていなかったように思え ます。

歯科治療は、毎日血を見るような処置をしています。それにも関わらず「歯科 治療ではエイズはうつりません。」とTV広告をうったのは日本歯科医師会です。ちゃ んと感染予防対策ができていての言葉であれば、ここでどうのこうの言うことはあり ません。しかしハンドピース(あのキーンという音がする歯を削る道具)が消毒されているのを見たことがありません。せいぜいアルコールで拭くぐらいです。

うどん屋さんで前の人が使った割り箸をアルコールで拭いただけで使えといわれれば誰しも常識を疑うと思うのですが、それをやっているのが日本の歯科状況です。とてもタイ国に対して感染の心配な国などと言えたものではありません。タイのほとんどの歯科医院ではハンドピースはオートクレーブという滅菌処置がされています。この点だけを見ても感染予防に関してはタイのほうがずっといいです。

その3: 言葉

外国で医療を受ける際に不安なのが言葉です。自分の訴えが十分に伝わるか?等。ズキズキ痛いとシクシク痛いをどう表現しようか?等。 私は「医療は原則的にネイティブスピーカーで」と考えています。問診のとり方や治療計画の立て方まで、十分に言いたいことが言えて、聞きたいことが聞けるべきだと思いますし、それらは患者さんのことを文化的な背景まで十分理解されたほうがよりよい医療につながると思うからです。

外国ですから簡単にネイティブスピーカーの医者をというわけにはいきません。たとえ通訳をつけても言葉の翻訳をするだけで文化的なことや習慣、慣習にもとづいたものを十分伝えられるとは思えません。ここに通訳をとうした医療の限界があります。 この点では日本でうける医療にかないません。

しかし日本の医療がどれほどコミュニケーションがとられているか怪しいものです。1日に50人も患者さんを診ているような状況ではしたくてもできないのが実際のところではないでしょうか。時間をとってくれるだけタイのほうがいいかもしれません。 何も説明なく歯を抜かれて、その後「インプラントしましょう」と言われ、あわてて私のところに相談にくる人が1月に1人ぐらいいますので、タイのほうでもやはりあまりいい状況にはないと思います。

こういったことは問題の本質が言葉にあるのではなくインフォームドコンセンサスにあります。日本でもやっと名前を聞くことができるようにやった程度で、タイでは言葉の意味とその本質を理解している人があまりい ません。
というところで日本とタイとでは一長一短といったところでしょうか。

まとめ:

言葉がつうじれば安心できるというのであれば対応できるところはたくさんあります。「悪いところは歯医者に調べてもらって、あとは治してくれ。私はその間 まな板の鯉になるから」といった気持ちで医療を受ける人にとってはタイのほうが治療が丁寧なぶんだけ良い治療が受けられるのでお勧めします。(日本は本来の治療手順を省略するのであまりいい治療だとは思っていません。)

でもこんな治療やこんな意識で受ける治療がレベルの高いものとはとても思えません。
日本語が通じるというだけでなく、自分の今の状態の十分な説明、その治療計画、方針をしっかりさせるという気持ちで受けられればトラブルもなく、よりレベルの高い治療が受けられます。 日本の歯医者も患者さんにしっかりとインフォームドコンセンサスをしているとは思えないので、インフォームドコンセンサスに代表されるような医療側とのコミュニケーションということであれば 両者問題あり。でも探せば日本でも、この問題を重視している先生はいるかと思います。だんだん増えてきているはずです。

その4: 診療スタイル

日本では診療椅子を3台ぐらい並べて、3人同時に処置しています。Aの椅子で歯を抜く患者さんの麻酔をうって効くまで待ってもらう。その間にBの椅子で型採りのため に歯を削る。アシスタントが型をとっている間にCの椅子で前にいれた入れ歯の不具合の調整をする。

といったぐあいに歯医者は3つぐらいの処置を同時にこなしています。すべて流れ作業の如く行われます。人間を扱った職場であるにもかかわらず工場のような雰囲気があります。
タイでは歯医者が、かかりっきりで1人に1時間以上時間をかけて処置をします。

@ 日本スタイルのほうが医療コストを少なくできる。

A 感染予防に関しては、日本スタイルは絶対的に不利です。不可能と言わせていただきたい。こんなスタイルが主に なっているような国の人間がタイに対して「タイで歯科治療を受けるのはエイズが心配だ」などと言うのは、タイに対して失礼です。残念ながら日本はそんな立派な国ではありません。

B どちらのスタイルが本来の意味での"医療"を志しているのでしょうか?

久米考:貧しかった40〜50年前には日本スタイルも、その低コストということで日本スタイルは意味があったかと思います。しかしGNP第2位になり、高所得な国民あるいは日本人といえばお金持ちとみなされるようになった今では日本スタイルが望まれるとは思えません。むしろタイの田舎であれば意味があるのかもしれません。

その5: タイの歯医者の腕はどうか?

こういう疑問を持っているかたはたくさんいるかと思います。しかし私は"歯医者の腕"なる言葉が大嫌いです。口の中の小さなところをああでもないこうでもないとやるので器用さや熟練が必要と考えるかたが多いようです。そして悲しいことに、自分のことを"職人"と表現するような歯医者が少なからずいるのも事実です。

しかし器用さが本当に要求されるのであれば歯科大に入るときに器用さのチェックをするべきです。そんなことをしている大学を聞いたことがありません。歯科だけでなく医科でも名人技で処置をするような時代は過ぎ去ったと思います。決められたプロセスに従えば、だれがやっても同じような結果が得られるような手技が開発されていますしされるべきだと思います。でなければ医者はサーカスのようなことを競っていることになります。

"医術"の時代はもう終わっていると思います。現代は"医学"の時代 です。タイもすでに医術ではなく医学の時代にあります。

その6: 歯科材料は日本と同じレベルにあるか?

こういった疑問もよくうかがいます。でも安心してください。日本で売られているも のの95%ぐらいはタイでも買えます。逆に日本になくてタイにあるようなものもあり ます(歯の漂白など)から、この点では5分でしょう。メチャメチャな値段がつけら れている日本のほうが印象悪いです。たとえば歯科でよく使う麻酔薬ですが2倍〜4倍で売られていますから。医療コストは高くつきます。

■その7: 医療費

タイは非常に医療費の安い国だと思います。同じ治療を他の国と比べればタイに勝てる国なんてないと思います。シンガポールなんかの3分の1ぐらじゃないでしょうか。 ミャンマーになるとレベルも低いですが抜歯のような簡単な処置の費用もタイよりずっと高いようです。 しかし、タイの歯科治療費を聞くと「高いなぁー!」と思われると思います。日本で歯医者にかかってしはらう料金は1000円とか2000円ぐらいがほとんどでしょう。5000円ぐらい言われると、今日はえらく高く と思うのじゃないで しょうか。

だいたい1回の治療費の平均が5000円から6000円ですから、その2割負担3割負担です。日本の保険の治療費は世界で例外と言えるほど異常な料金設定です。その異常な料金設定で利益を出さなければいけないので、日本の歯医者さんはたいへんです。どこの国でも1日に診る患者さんは10人ぐらいのものですが、日本は40人から50人ぐらいじゃないでしょうか。1日に20人以下だと医院の経営そのものが無理でしょ う。1人の患者さんからもらう料金が少なければ数をこなすしかありません。だから1度に3人診療するという日本独特のスタイルが生まれたのです。

これが"その3"の診療スタイルに話が続きます。昭和30年ぐらいの貧乏だったときならふさわしいスタイルだったかもしれませんが、GNP世界2位の国の医療スタイルとしてはふさわしくあ ません。保険治療費に慣れてしまった日本人には高く感じてしまうかもしれません が、タイはやはり医療費がとびきり安い国です。

■その8: どんな治療がお得感が強いか

なんといっても"入れ歯"が激安です。日本で金属の入れ歯を作ればどうしても15万円以上になりますが(歯科医院によっては100万円以上も)、数万円でできてしまい ます。それと、日本ではあまりに高価になってしまうので一般的ではないアタッチメ ントを使った入れ歯も"超"がつくほど安くできます。

アタッチメントというとイメージがわかないかたも多いと思いますが、歯と入れ歯の両方に磁石をつけて磁力で入れ歯を安定させるといえばイメージできるでしょうか。磁石以外に星の数ほど種類があります。アタッチメントをつかえば、

@ まず見た目がすっきりする。従来の入れ歯のようにカニの爪のような見苦しい"引っ掛け"がなくなります。

A 入れ歯自体の大 きさを小さくできる。

B 残った歯に優しい。従来の入れ歯に付いているカニの爪のよ うなもの(クラスプ)は歯に優しいとは言えません。入れ歯を安定させる代償にその歯自体の寿命を縮めます。アタッチメントだと不適な力が加わらないような工夫がされている。アタッチメントを使った入れ歯は値段以外はいいことづくめです。

その問題の値段もタイでは"超"が付くほど安いのですから、試されることをお勧めします。 セラミック(ポーセレン)の歯も安いです。日本だと8万円〜10万円ぐらいですが、3分の1ぐらいでしょうか。しかも使っている材料も歯医者のかける手間もタイのほう がずっと上です。

"ロングステイの会"のメンバーの方はあまり関係ないかもしれませんが、矯正も非常に安いです。 日本だと100万円は異常な料金でなく普通とされていますが、4万バー ツぐらいでされます。 日本の保険対象の処置に関してはさすがのタイも勝てませんが、保険を使わない"自費診療"となるとタイが断然安いです。

◆もっと詳しく・・・久米さんのコラムへ

お問い合わせは info@kobayashi.co.th  Tel. (662)233-3602-3